メディア戦隊レッドテイラーNEO

静岡大学情報学部・赤尾晃一の教育・研究に関するブログ。2017年10月から新装開店。

籾井勝人NHK新会長会見で「問題発言」だと思う箇所

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籾井勝人NHK新会長の就任記者会見での,いわゆる「従軍慰安婦」に関する発言が問題化している。朝日新聞記者の挑発にのせられて,持論をぶってしまう思慮の浅さには呆れ果てる。ただ,籾井会長が「従軍慰安婦」問題でどんな考え方を持っていたとしても「思想信条の自由」である。

それよりはるかに問題だと憂慮するのは,籾井氏の「放送法」に関する姿勢である。「(番組での論調は)放送法に基づいて判断していく」「放送法があるから(政権と)距離を保てる」といった発言は,まるで放送法の存在によって「公平性」「不偏不党」が努力なしに手に入ると言わんばかりの姿勢だ。

放送法(第三条)は外部からの圧力の排除を掲げているが,政権などあらゆる勢力がNHKに日常的に圧力をかけ続ける。NHK会長は先頭に立って,そうした圧力に抗っていく必要がある。ジャーナリストである必要はないが,ジャーナストのマインドを持った人でないと務まらない。放送法第四条(編集準則)が掲げる目標も同様で,不断の闘いが必要となる。「放送法があるから(政権と)距離を保てる」という天賦説はありえないのだ。

国際放送は国内放送とは異なり,政府からの助成金も出ていて「準国営放送」ともいえる。しかし「政府が右ということを左とはいえない」となると,NHKとしての役割を放棄しているといわざるをえない。政府に対して是々非々で臨むのはどんな場合でも公共放送の使命である。

NHKは予算・経営委員任命などで政権与党との距離が常に近づかざるを得ない宿命を背負っている。籾井氏の任命自体が政権与党の思惑でもある。ならばこそ,本来はきっぱりと政権与党と一線を画すべきなのだ。「私の発言は,政府からふきこまれたわけでも何でもない」という発言は,穿った見方をすれば「ふきこまれた発言だ」ということを意味するかもしれない。

籾井氏を辞任に追い込んだところで,問題の構造は何も変わらない。NHK経営委員・経営委員長・会長はどう選ばれるべきかというガバナンスの問題について,これを機に議論するのも悪くないだろう。放送法はいくらでも改正できる。良い方向に。そして,悪い方向にも。


NHK 籾井会長 記者会見 - YouTube

冒頭発言―NHK籾井新会長の会見詳報1:朝日新聞デジタル